困難を乗り越えるために「知性(マインド)」を磨く

私は,2018年5月発行の「つばさ」に掲載された新任の挨拶を以下の文で締めくくりました。

「子どもたちのセルフエスティームやライフスキルを育てることの意義は,危険行動の防止にとどまりません。私たちは,子どもたちがそうした特性や能力を身に付けることによって,たとえ逆境に身を置くことがあっても,それらを乗り越え,しなやかに生きることができると確信しています。」

この時点では,新型コロナウィルスの感染が世界中に爆発的に広がるなどとは想像もしませんでした。パンデミックの恐ろしさは,人々の身体的健康だけではなく,精神的・社会的健康にも深刻な影響を及ぼす点にあります。例えばOECDの調査によれば,うつ病やうつ状態の人の割合は,日本を含む先進諸国では,パンデミック以降,2〜3倍に増えています。また我が国成人の自殺率は近年減少傾向にありましたが,2020年には女性の自殺の増加が報告されています。以上のことから,人生上の困難を乗り越える力,即ちレジリエンシーは子どもたちだけではなく,私たち大人にも必要不可欠なものであると言えます。

セルフエスティーム研究の第一人者である臨床心理学者のナサニエル・ブランデンは,セルフエスティームは意識の免疫システムとして作用し,人生の挑戦に直面した時に,抵抗力や強さや再生能力を提供すると述べています。そして,セルフエスティームを高めるためには,「知性(マインド)」を向上させなければならないと主張します。ここで言う知性とは,単に知識が豊富であると言うことではなく,考える力を意味しています。言い換えれば,自分が直面する問題状況において,適切に思考を働かせ,解決策を決定する能力のことです。

このように知性を捉えた時,必ずしも学歴が高い人の知性が高いとは限らないことが分かります。今回のパンデミックにおいて,間違った情報がSNSやテレビなどを通じて広がり,真偽を吟味することなく短絡的な行動をとってしまったり,自分とは異なった行動を取る人を激しく攻撃したりする人々が少なからずいました。このような人たちは,情報を吟味するヘルスリテラシーや考える力,即ち知性が不足していたのだと思います。

大学で多くの知識を獲得するチャンスに恵まれているのは幸せなことです。しかし,それだけにとどまらず,自分の人生において起こる様々な問題を主体的に考えることができる人間を是非目指してください。

放送大学兵庫学習センター・姫路サテライトスペース「つばさ」第63号,2021年11月より

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