ライフスキルの定義

ライフスキル教育を最初に取り入れた喫煙・飲酒・薬物乱用防止プログラムであり, その有効性が高く評価されている「Life Skills Training(LST)」を開発し, また生活習慣病の予防を目的とした総合的健康教育プログラム「Know Your Body (KYB)」の開発にも携わったコーネル医科大学のボトヴィン(Botvin, GJ)は, ライフスキルについて,以下のように定義しています。

複雑で困難な課題に満ちた社会の中で成功し,直面する多くの問題を効果的に取り扱うのに必要とされる 一般的な個人および社会的スキル
(川畑徹朗訳)

また,WHO精神保健部局ライフスキルプロジェクトによる以下の定義も よく知られています。

日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して, 建設的かつ効果的に対処するために必要な心理社会能力    (川畑徹朗訳)

ライフスキルの本質を理解する上で特に重要なポイントは以下の3つです。

●学習や経験によって獲得可能な能力
●様々な問題や状況に応用可能性が高い,一般的・基礎的な能力
●心理社会能力

ライフスキルの具体的内容については様々な考え方がありますが, LSTやKYBなどの主なプログラムでは,セルフエスティームの形成, 目標設定,意志決定,ストレスマネジメント,対人関係(社会的)スキルを重要な ライフスキルとみなしています。

ライフスキル教育の背景

国内外の多くの研究によって,青少年が取る行動と彼らの現在そして将来の健康との間に深い関係がある ことが示されています。しかし,かつての健康教育は単に知識を与えるだけのものであり,行動変容には 結びつきにくいものでした。それは,一般に人が取る行動には多くの要因が関わっており,知識はその一 部に過ぎないことが見落としたからです。例えば,青少年の行動には周囲の人の行動や態度,あるいはマ スメディアなどの社会的要因が大きな影響を与えています。
そこで,1970年代になって欧米では社会的要因の影響に対処するスキルを育てることに焦点を当てたプロ グラムが開発され,効果をあげました。しかし,こうした社会的要因の影響をすべての青少年が同じよう にうけるわけではないことが次第にわかってきました。特に,自分の能力や価値に対する自信がなく,周 囲の人と良い人間関係を作ったり,ストレスや怒りなどの感情をコントロールしたり,問題状況において 合理的に解決策を決定するといった,私たちがよりよく生きていく上で不可欠な基本的心理社会能力(ラ イフスキル)に欠ける青少年が,社会的要因の影響を受けやすく,様々な危険行動をとりやすいのです。
そこで1970年代後半になって,ライフスキルの形成に焦点を当てたプログラムが開発され,喫煙・飲酒・ 薬物乱用の防止に有効であることが明らかになりました。そして今日では,思春期の様々な危険行動の根 底には共通要因としてライフスキルの問題が存在しており,その形成を図ることによって多くの危険行動 を防止することが可能であると考えられるようになってきています。
またライフスキル教育を取り入れた健康教育は,これからの学校教育の主要目標である「生きる力」の形 成にも貢献する可能性が高く,21世紀の健康教育のモデルとみなすことができます。