アール・ナイチンゲール「人間は自分が考えているような人間になる」きこ書房,2014

 私は,今年(2016年)の伊丹市の若手教員スキルアップ講座の中で,「ハーバードの人生を変える授業」(大和書房)という本に書かれていた内容を紹介しました。著者のタル・ベン・シャハーはその中で,勉強の内容には「仕事に関連する知識習得」の他に,「自己啓発」に関するものがあると述べています。アール・ナイチンゲールの「人間は自分が考えているような人間になる」は,ナサニエル・ブランデンのセルフエスティームに関する一連の著書,ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」などと並んで,自己啓発に関する名著の一つに数えられるだろうと思っています。
 アール・ナイチンゲールは,1921年にカリフォルニア州ロングビーチの貧しい家庭に生まれました。彼の幼い頃からの疑問は「いったい,どこが違うんだろう。なぜ金持ちと貧乏人がいるんだろう。なんで受け取る額にこれほどの違いがあるんだろうか。その原因はいったい何なのだろう」というものでした。彼は,本好きの母親の影響を受け,その答えを本の中に求めました。
 ラジオのアナウンサーをしていた29歳の彼は,読書中に突然「人間は自分が考えているような人間になる」という人生の真理が閃いたそうです。ちなみに,この真理を発見するきっかけになった本こそが,ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」という本でした。彼は言います。「だしぬけに私は,何年もの間,繰り返し同じ真理を読み続けていたという事実に気づいたのである」と。「人間は生まれてからずっと,自分の思い描いている世界を作り出してきたのである。もし,何も考えず本能に従って生きているだけだとしたら-かつて子どものときに私が住んでいたロングビーチの人たちのように-人間は何ものにもなれないのである」。しかし,誤解をしないでください。彼はけっして富を得ることが人生の成功だとは言っていません。彼は,「この世で最も素晴らしいものとは,他人に奉仕する機会があることである」と述べています。
 さて,私がこの本の中で一番心に残った一文をご紹介しましょう。
 「人生に過ちはつきものである。しかし,最もタチの悪い過ちは,人と同じでありたいということばかり考えて,本来の自分の姿を見失ってしまうことである」。
 私は,この箇所を読みながら,セルフエスティームの「個性の感覚」のことを考えていました。また,仏陀の「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」という言葉も思い浮かびました。この言葉はよく誤解されるように,「自分(仏陀)だけが偉い」という意味ではありません。この言葉の真の意味は,「この世の中に,また過去にも未来にも,私という人間は二人といない。だからこそ,私もあなたたちも等しく尊いのである」という意味です。
 私は,家庭であれ,学校であれ,教育の目標とは,究極的には,様々な人生上の問題について自分自身で考え,選択し,決定することができる「自立」した人間になるよう支援することであると思います。そのためには,子どもたちが自分自身の考えや価値観を尊重できるように励まさなければなりません。それと併せて,自分なりのやり方で周囲の人や社会に貢献する方法を見つけ,実践するように促すことが大切です。最近,学校教育で重視されているアクティブ・ラーニングのキーワードは,「主体的な学び」と「協働的な学び」です。言い換えれば「自立」と「協働」です。ライフスキル教育は,アクティブ・ラーニングという観点からも,これからの教育をリードするものだと言えます。
JKYBニュースレター第45号(2016年9月号)を一部修正

 

以前のトピックス