子どものレジリエンシー(精神的回復力)を育てよう

今日の深刻な教育課題の一つに,社会経済的格差に由来する健康格差や学力格差の進行がある。置かれた環境の故に子どもたちがその能力を発揮する機会を奪われることは,誠に悲しい。伊丹市教育委員会が,こうした教育課題の解決に向けて,スクールソーシャルワーカーの採用,放課後学習の実施,コミュニティ・スクールの導入など,様々な 取組をしてきたことは高く評価されて良い。

さて,私が専門とする喫煙,飲酒,薬物乱用,いじめなどの思春期問題を解決する取組において近年注目されている概念の一つに,レジリエンシー(精神的回復力)がある。貧困,争いごとの絶えない家庭や地域,学校におけるいじめや暴力など,成長にとって極めて困難な環境にあっても,健全に育ち,有能な成人へと成長する子どもたちがいる。子どもの発達にかかわる専門家は,こうした子どもたちが備えている特性や能力をレジリエンシーあるいはレジリエンスと呼び,長年にわたってその解明に取り組んで来た。

私は,1)セルフエスティーム(健全な自尊心),2)ストレス対処スキル,対人関係スキル,意志決定スキルなどのライフスキル(基礎的心理社会能力),3)ソーシャル・サポート感(必要な時に周囲の人から支援を得られるという感覚)をレジリエンシーの中心的要素としてとらえ,レジリエンシーを形成するためのプログラムを開発し, 中学生のいじめ被害経験を減少させるという成果を得た。

レジリエンシーを育てることは,すべての子どもにとって有意義なことである。なぜなら,一生のうちで一度も逆境を経験しない人間など存在しないからである。レジリエンシーを身に付けた子どもたちは,現在あるいは将来遭遇する逆境を乗り越え,さらに成長することができる。伊丹市のすべての学校に導入予定のコミュニティ・スクールにおいて,レジリエンシーを育てることが最優先課題の一つとなり,協働して取り組まれ ることを願ってやまない。

 

「教育いたみ」(2017 年3月)

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